ECTの歴史
電気けいれん療法(ECT)は、長い歴史のある治療法です。
実は、抗精神病薬よりも歴史が古いのです。
現代のECTは、全身麻酔と筋弛緩薬を用いた「修正型ECT(mECT)」へと進化を遂げました。
眠っている間に短時間で行われるため、お身体への負担や恐怖心に最大限の配慮がなされています。
ここでは、ECTが歩んできた歴史と、進歩し続けるその安全性についてご説明します。
1. ECT開発以前の治療法
電気けいれん療法(ECT)が開発される以前から、“てんかん患者がけいれん発作を起こすと精神症状が改善する”という臨床観察がありました。
この観察に基づき、人為的にけいれんを起こすことで精神疾患を治療できるのではないかと考えたハンガリーのメドゥナにより、1934年、カルジアゾールけいれん療法が開発されました(発表は1935年)。
これにより、人為的にけいれんを起こすことで精神症状が改善することが明らかにされました。
人為的にけいれんを起こす方法として、インスリンショック療法なども試みられましたが、これらの治療法は危険性が高く、実施も困難でした。
2.世界における始まり
こうした背景の中、イタリアのチェルレッティは食肉処理場で豚に電気ショックを与えて気絶させる様子を見たことをきっかけに、より安全で確実なけいれん療法として電気を用いる方法を考案しました。
電気けいれん療法(ECT : electroconvulsive therapy)は、1938年にチェルレッティとビーニによって初めて施行されました。
ECTはうつ病や統合失調症の症状改善に大きな効果を示し、世界に広がっていきました。
しかし、初期のECTは麻酔や筋弛緩薬を用いずに行われたため、けいれんによる骨折や恐怖体験など、患者さんへの負担が大きく、「怖い治療」というイメージがついてしまいました。
3. 修正型ECTへの進化
その後、麻酔と筋弛緩薬を用いた修正型ECT(Modified ECT, m-ECT) が開発され、安全性と快適性が大きく改善しました。
特に1951年、アメリカのディレイらによるサクシニルコリンを用いた最初の報告には、外来(日帰り)で施行されたECTの事例が含まれています。
つまり、修正型ECTは初期の段階から外来で行う形が可能であることが示されていました。
余談ですが、この翌年の1952年、フランスのディレイとドニケによって、最初の抗精神病薬であるクロルプロマジンが発見され、精神医学に導入されました。
4. 日本での導入
日本では、1939年に九州大学の安河内五郎らが最初のECTを報告しました。
戦後は全国の精神科病院で広く行われるようになり、1958年には東京大学の島薗安雄らがサクシニルコリンを用いた修正型ECTを報告しています。
ただし、日本では伝統的に入院でのECTが主流であり、アメリカのように外来で広く行われてきたという記録は(資料を辿る範囲では)あまり確認されていません。
日本では入院下での手厚い観察と管理体制のもとで、安全性を最優先に発展してきた経緯があると推察されます。
5. 一時的な停滞と再評価
1970年代には、ECTに対する不安や誤解が広まり、施行される数が減りました。
1975年に公開された映画『カッコーの巣の上で』ではECTが非人道的なものとして否定的に描かれています。
しかし1980年代以降、修正型ECTの安全性や有効性が再評価され、再び大学病院や総合病院を中心に施行数が増加していきました。
2002年には、より精密に電気刺激を制御できる短パルス矩形波治療器が日本で認可されました。
これにより必要最小限の電気刺激で治療効果を得られるようになり、さらに安全で効果的なECTが可能となりました。
6. 現代のECT
現在、ECTは国際的なガイドラインのみならず、日本国内の治療指針においても、推奨される治療法として確立されています。
アメリカでは今も日帰りECT(外来ECT)が一般的に行われており、ある報告ではECT患者の半数以上が外来のみで治療を受けているとされています(Wilkinsonら, 2023)。
日本でもこれまで入院でのECTが中心でしたが、最近では入院せずに受けられる日帰りECTも少しずつ行われるようになっています。
当院でも、生活に合わせて日帰りで治療を受けていただけるよう対応しています。
